ヒガンバナ(ヒガンバナ科)[彼岸花] |
秋彼岸の頃に咲くのでこの名がある。別名をマンジュシャゲ(梵語で真紅の花の意)というが、ほかにも地方によって「葉見ず花見ず」、「死人花(しびとばな)」などさまざまな呼び方があり、地方名は五百以上とも千以上ともいわれる。 ヒガンバナが田のあぜなどを赤く染める風景を秋の風物詩とか日本の原風景とかいう人がいるが、それは関東地方以西においての話であり、東北地方と北海道には分布していないまたはごく少ないので、自分を含めて北の地方で育った者には全くなじみのない風景だろう。 中国の長江流域が原産の多年草。古い時代に渡来した(渡来の時代については諸説ある)といわれ、人里近くだけにあり、田のあぜ、土手、墓地などに生える。墓地にあるものは、狼や野犬などの墓荒らしを防ぐためとも、墓への供え花として植えたともいわれる。田のあぜに植えたのは、飢饉の際の救荒植物としての備えのほか、浮いてきた鱗茎を根が縮んで地中に引き戻す「牽引根」の作用と、ミミズが鱗茎を忌避することにより結果的にモグラの出没を防ぎ、あぜ崩れ(土の流出)を防止を図ったものだという。さらヒガンバナがもっているアレロパシー(他感作用)によって、土手やあぜに生える雑草の発芽を抑える意味もあったらしい。いにしえの人々のこのような知恵には感服せざるを得ない。 中国には正常に結実する2倍体のヒガンバナがあるが、日本にあるものは3倍体なので結実せず、鱗茎で殖える。鱗茎は黒褐色の外皮がある直径約3cmの卵球形で、花や葉とともにリコリン、ガランタミン、ホモリコリンなどのアルカロイドを含み有毒であるが、かつては何回も水にさらして毒を流し、救荒植物としてデンプンをとって食用とした。中毒症状としては下痢や嘔吐、けいれん、中枢神経麻痺などをおこし、ときに死にいたる。薬用では石蒜(せきさん)とよばれ、去痰、解熱、催吐薬などに利用する。生の鱗茎をすりおろしたものはむくみ、肩こり、乳腺炎に効ありという。 花の咲いているときには葉はなく、花が終わって晩秋に葉を束生し、ほかの草が枯れている冬に日を一杯に浴びて鱗茎にしっかり養分を蓄え、春の終わり頃になってから枯れる。葉は深緑色で中脈沿いはやや淡色、厚く光沢があって軟らかく、長さ30-60cm、幅6-8mmの帯状。 花茎は葉のない8-9月に伸び出し、高さ30-50cmの円柱形で、先に散形状に5-7個の花を横向きにつける。総苞は2個、長さ2-4cmの披針形で膜質、花柄は長さ0.6-1.5cm。花は鮮赤色で花被片は6個、長さ4-5cm、幅5-6mmの狭倒披針形、縁は波状に縮れ先は外側に強く反り返り、筒部は長さ0.6-1.4cm。雄しべは6個で長さ6-7cmで花筒の口について雌しべとともに長く花外に突出し、葯は花糸に丁字状につく。子房下位で花柱は長さ8cm。 果実は日本では不稔で種子はできない。まれにできても発芽しないことが多い。 花の色の白っぽいものは別種で、シロバナマンジュシャゲといい、結実する2倍体のヒガンバナ(コヒガンバナとよばれている)と四国以南に自生するショウキズイセンの交雑種と考えられている。 花期:9-10月 分布:本(秋田・岩手県以南)・四・九 撮影:2006.10.1 埼玉県日高市 |
2006.10.1 埼玉県日高市 2022.9.30 神奈川県茅ヶ崎市 越冬した葉。 2016.3.26 横浜市南区 伸び出した花茎。 2020.9.17 横浜市戸塚区 |
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